インターネット広告、「ツカエル」のは今だけ

■最近、車内や新聞の広告を見ていると、Yahoo!JAPANやGoogleなどのインターネット検索エンジンで、特定のキーワードで検索して自社のWebサイトへ誘導する内容のものが増えている。
たとえば今日は八千代中央駅前3分のマンションが「ツカエル」というキーワードで検索して下さいという広告を東西線の車内に出していた。じっさいにGoogleで検索してみると、このマンションの開発業者は「ツカエル」というキーワードのスポンサーになっており、検索結果のいちばん上に背景色つきで表示される。
これはリスティング広告という広告手法で、たとえば「転職」のように一般的な単語になればなるほど検索する人数が多いので、検索結果のスポンサーとして自社のWebサイトが表示されるようにするために支払うべき広告料が高くなる仕組みになっている。逆に「ツカエル」のような、ほとんど誰も検索しないであろうキーワードは、安くスポンサーサイトになれる。言葉に値段をつけるとは、インターネットの検索サイトもよく考えたものだと思う。
しかし「ツカエル」のような特殊な単語の場合は、広告料を支払わなくても検索結果の上位に表示させることができてしまう。たとえば「ツカエル」というキーワードでGoogleを検索すると、スポンサーサイトのすぐ下には、この八千代台中央駅前のマンションとはまったく無関係なWebサイトが表示され、旭化成L&L「サランラップ」のテレビCMに登場するあの皮肉屋の2匹のカエルが実は「ツカエル兄弟」という名前で実の兄弟ではないということも判明する。
リスティング広告の副作用は、この「ツカエル」の例でも分かるように、自社とはまったく無関係なWebサイトを間接的に宣伝することになってしまうことだ。この八千代台中央駅前のマンションが「ツカエル」というキーワードで広告を打ったおかげで、アクセス数が急激に伸びるという「おこぼれ」を頂けるWebサイトがいくつか出てくる。
ご存知のようにインターネット人口の増加率は少しずつ減少している。20~30代の中核となるインターネット利用者は今後なおさら伸び悩むだろう。そうするとインターネット広告も収穫逓減の法則にしたがって、費用対効果がどんどん低下していく。先日、ニューヨークの株式市場で「Googleショック」が起こったが、Googleの経営陣が正直に話したことはまったく正しくて、インターネット広告はビジネスとしては早晩、限界に達する。
しかもインターネットに参入する企業が増えるにつれて、同じ業種の企業の間ではwinners take allの色彩がますます強まる。消費者は商品やサービスの選択肢が増えれば増えるほど、自分が一度選択した商品やサービスに「ロックイン」してしまうものだ。たとえばあなたはオンラインショッピングをするとき、毎日違うWebサイトを探したりするだろうか。
思い返してみれば、検索キーワードが広告になるようになってから、つまり、言葉に値段がつくようになってから数年しか経っていない。リスティング広告のようなインターネットマーケティングは、Google社自身が危機感を示したように、そう遠くない未来に収穫逓減の法則にしたがって効果を失う。
そうなったときインターネット広告に特化している企業は、インターネット以外の媒体で地道に広告展開のノウハウを蓄積している企業に決定的に敗北することになる。その企業がインターネットを主体に事業を行う小売やサービス業の企業であれば、なおさらインターネット自体がもっているwinners take allの性質によって、致命的な集客の危機に陥ることになる。
インターネットが現時点で広告媒体として安価で、他の媒体に比べて費用対効果が高いのは確かだが、それは単に情報の非対称性、つまり、インターネット広告を知っている企業と知らない企業があるからというだけである。インターネット広告のうまみを知る企業が増えれば需要が増え、広告料が高くなり、相対的な費用対効果は他の媒体と変わらなくなる。先行者利益はあっという間に食いつぶされるだろう。
ただ、そうしたインターネット広告とインターネットビジネスに関する当然の理論的な帰結を理解しない会社員が多いのは、概して会社員に演繹的思考能力が乏しいためである。会社員は経験から学ぶ「帰納」の力はあるが、原理から結論を導き出す「演繹」の能力は極端に乏しい。会社員のほとんどが学生時代に「原理」にあたるもの、つまり、過去の偉大な学者たちが残した数々の思想・定理・原理といったものをまじめに勉強していないのだから、当然といえば当然である。
自分たちには世界を変えることができるというのは、ごく限られた天才にのみ認められた特権なのであって、その他のほとんどの人々は既に発見されている法則に従うより他ないのである。
※「収穫逓減」とニューエコノミーについては、こちらの永井俊哉氏のWebサイトの記事「ニューエコノミーとは何か」等を参照のこと。