『人間コミュニケーションの語用論』

『人間コミュニケーションの語用論―相互作用パターン、病理とパラドックスの研究』(二瓶社)を読んだ。最近このサイトでたびたび触れているブリーフセラピーの理論的裏付けとなる書物だ。ベイトソンのダブルバインド理論などをもとに、人間どうしのコミュニケーションが終わりのない相互作用の過程であり、それはいくつかのパターンに分類できることを論じている。
僕が某自動車会社でドイツ人上司の下、IT部門内のチェンジマネジメントに関わっていたとき、コミュニケーションの重要性について共通の理解をもつための言葉があった。それは「人はコミュニケーションしないことはできない」という言葉だ。人間はコミュニケーションしないということによっても、何かを伝えてしまう。この重要な命題は本書の最初の部分でも確認されている。
精神病理についても、個人の内面に病気の原因をさがすのではなく、人と人との相互作用に病気の解決法を求めようとする本書の考え方が、ブリーフセラピーの支柱になっている。個人の心を閉じた系と見なすのではなく、周囲の環境のなかで他の人間とともに大きなシステムを構成する一つのオブジェクトと見なすシステム論の考え方も、その背景にある。
精神分析が主流だった心理療法の世界で、ブリーフセラピーのような解決指向の方法論がどのようにして生まれてきたかがよく分かる一冊だ。