異常さに気づけない日本人

■先日昼食をとりに入ったファミリーレストランの隣の席に、ジーパン姿の若い母親と5歳くらいの男の子が入ってきた。料理が運ばれると母親は口元にどんぶりを近づけたまま、箸でちびちびと食べ物を口に運び続け、子供は一時も落ち着いて食事をすることなく、テーブルの下にもぐったり、椅子の背もたれから身を乗り出したりして動きまわっている。
すると突然「ちゃんと座って食べなさいって言ってるでしょ」と、母親が一文字一文字がコンクリート製の活字になって口から飛び出しているのではないかという店中に響きわたる声で、子供の方を見るでもなく、まっすぐ宙を見つめたまま口元にどんぶりを近づけた状態のまま叫んだ。母親のそばに置かれているブランド物のコピーっぽい皮製ハンドバックは、手提げの部分がボロボロになって今にもちぎれそうだ。
子供は叱られてぐずり出すが、しばらくすると何事もなかったようにふたたび動きまわりはじめる。すると母親はまたコンクリート製の活字を口から吐き出して「ちゃんと食べなさい」と今度は子供の目を覗き込んで叱りつける。子供は「だってもう食べたくないもん」と懇願するように今にも泣き出しそうな声で答える。しかししばらくするとまた何事もなかったように男の子はテーブルにもぐって母親の足元を通って反対側に顔を出したり、背もたれから身を乗り出したりし始める。
この母子は延々とそんなことを繰り返し、母親の食事は遅々として進まず、子供は何度も叱りつけられて完全に食欲を失っている様子。食事中にろくに食事もできないほど叱られれば慢性の胃腸病になるだろうし、栄養を十分にとれないかもしれない。本来楽しいはずの食事という行為が苦痛でしかなくなるだろう。
客観的に観ると明らかに問題のある育児をしているのに、まったく自覚のない親というのを最近、電車の中など公共の場でよく見かける。電車に乗り込むや否や真っ先に子供にあいている席に座らせて、その正面に立つ親。わがままし放題の子供は家庭の中のボスなのだろう。親は公共の場に出ても自分の子供のボス意識を改めさせない。果たしてこの自意識の肥大した子供は将来、集団生活に適応できるだろうか。
明らかに異常な育児をする親の数が増えているという感覚は、決して気のせいではないはずだ。自分の家庭の中で起こっていること、自分の企業の中で起こっていることを相対化できない日本人が増えているのは、多様な価値観にふれる経験に乏しく、自分たちの嗜好に合うものだけを追求する生活様式の日本人が増えているからである。