TVドラマと全く違う『雨と夢のあとに』

■『雨と夢のあとに』が原作となっているテレビ朝日系放映の同じタイトルのテレビドラマを先に見て、ああ、芥川賞作家の柳美里も、重い私小説は卒業して、『いま、会いにゆきます』みたいな、通俗的な怪談恋愛モノを書くようになったんだ、とショックを受けた昔からの柳美里ファンは安心してほしい。
本書は一応ドラマの原作ということにはなっているが、まったく別の物語だ。むしろ彼女が芥川賞を受賞した前後の、私小説的な作品の閉塞感や絶望感は消え、強い倫理性に裏打ちされた不思議な透明感のある親子愛の物語になっている。
テレビドラマでは主人公の桜井雨は高校生だが、原作では小学6年生の無邪気さを残す少女だ。ドラマでは何人も幽霊が登場し、残された人々の愛情に気づくことで成仏(?)するというワンパターンの一話完結ものになっているが、原作に登場する幽霊は雨の父親と、たまたまマンションの隣室に住んで、ある理由で死んだ若い女性の二人だけ。
あくまで雨と父親の穏やかな愛情が、限りある日々のなかで静かに交感される、淡々としつつも深い感動を残す小品。まさにフォーレの『夢のあとに』のようだ。幽霊の希薄な存在感をさりげない文体で、説得力をもって描く柳美里の筆力はさすが。はじめて柳美里を読む人にもおすすめだけれど、彼女の初期の小説や戯曲を愛していた人たちも、まったく裏切られることはない、美しい小説である。