失敗から学んでいたJR東日本

東京大学名誉教授・畑村洋太郎著『失敗学のすすめ』(講談社文庫)を読み終えたが、文庫版だけに収録されている「あとがき」に一つ貴重な情報があったので読者の皆さんにぜひ紹介させて頂きたい。
2004/10に起こった新潟県中越地震で上越新幹線が脱線事故を起こしたとき、読売新聞をはじめとしてほとんどの報道機関が「新幹線の安全神話が崩壊した」などと否定的な論調だった。
しかし畑村名誉教授は一人の負傷者も出さなかったこの脱線事故の背景に、JR東日本の地道な安全対策があったことを指摘している。阪神大震災の教訓から、JR東日本は管内新幹線の高架部分の支柱補強工事を着々と進めていた。そのおかげで、新潟県中越地震が直下型だったにもかかわらず支柱はびくともせず、高架橋全体が崩壊するという最悪の事態を見事に回避したというのだ。
文庫版の「あとがき」には上越新幹線の高架のすぐ近くにあるマンホールが地盤の液状化で石塔のように1メートル以上も浮き出している写真が紹介されている。それくらい地盤が急激に軟弱化したあの地震にあっても、上越新幹線の高架橋は無事で、新幹線は車両が脱線しただけですみ、負傷者は出なかった。
阪神大震災の失敗から学んだJR東日本の地道な努力を評価せず、脱線の負の側面ばかりを非難する日本の社会(というより報道機関)こそが、企業が失敗から学ぶことを妨げる環境をつくりだしているのだという畑村氏の主張には説得力がある。失敗から学ぶことなく同じ失敗をくりかえす企業は論外だが、失敗から学んだ形跡がないかを注視することはたしかに重要だ。