「日勤教育」という名の組織保身

■失敗原因には階層性があり、会社組織の失敗は往々にして現場担当者一人の責任にされがちだが、その背後には組織運営上の原因が潜んでいることが多い。企業が事故や不祥事を起こしたとき、当該企業や管轄する役所が原因究明のための特別チームを作ることはよくあるが、世間に与える影響を考慮して、当たり障りのない結論を出してお茶を濁すこともある。
以上はちょうど昨日から読み始めた東京大学名誉教授・畑村洋太郎著『失敗学のすすめ』(講談社文庫)から自由に引用したものだ。
先日の大阪での脱線事故について、その後の報道でこの鉄道会社では、駅からの発車時間が数十秒遅れたり、ホームをオーバーランした場合、その運転手に「日勤教育」という、業務に直接関係のないレポートを何十枚も書かされたり、複数名の上司から集団で詰問されるなどの、精神的懲罰を与える制度があったという。この鉄道会社の時代錯誤ぶりにはあいた口がふさがらない。
「日勤教育」では再度ミスを犯した場合、運転手を辞める誓約書を書かされることもあったというから、運転手に与える精神的圧力は強力で、昨日の『報道ステーション』は「日勤教育」が直接の原因となった自殺者のケースも紹介されていた。
今回の事故の運転手も一度オーバーランを起こして二週間弱の「日勤教育」を受けており、事故直前に二度目のオーバーランを起こして1分半の遅れまで生じてしまっている。まだ二十代前半という若さで、遅れを取り戻そうという精神的重圧と、二度とハンドルを握れないかもしれないという将来に対する悲観が入り混じって、パニック状態になっていたことは容易に想像できる。
さきほどの引用にもあるように、事故を現場担当者個人の責任に帰したのでは、まったく問題解決にはならない。また、国土交通省の鉄道事故調査委員会は「原因特定には時間がかかる」と、早くもお茶を濁しにかかっている。事故直後に鉄道会社幹部が「置き石」説を強調したのも、運転手をかばうというよりは、自分たちも含めた経営層の保身のためである。
このままいけば個人に責任をなすりつけ、まったく実質的な効果のない「日勤教育」という時代錯誤の懲罰制度は見直されないまま、事故原因はこの鉄道会社と国土交通省の最強タッグでうやむやにされてしまうことだろう。
ところで僕が通勤に使っている私鉄は、『失敗学のすすめ』でも取り上げられている数年前の脱線事故を起こした地下鉄と相互乗り入れしているが、ほぼ3日に1日は夜のラッシュ時間帯に3~5分の運行遅れを起こす。乗客の安全を最優先にして、定時運行の効率性を犠牲にするこの私鉄の運行方針はきわめて正しい(それでも最近、人手による無理な踏切の運用が原因で死亡事故を起こしてしまっているが)。
今回脱線事故を起こした鉄道会社は逆に、乗客の安全と現場運転手を犠牲にして、企業としての効率性と経営層の自己正当化を最優先にしている。おそらく同社の体質はそうかんたんには変わらないだろう。

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  1. 医学生の憂鬱

    【脱線事故】日勤教育

    呆れたシステムだな。いい大人に恥をかかせるとは。誰かJRの上層部に「罰の法則」を教えてやってくれ。動物は懲罰によっては成長しないのだということを。戦争経験者とか貧しい頃の日本を生きてきたヒト達は尊敬しているのだが精神論だけで乗り切ろうとする所は頂けないな。マスコミ…