角田光代「旅先三日目」

■『情熱大陸』というテレビ番組に先日、阿部和重の芥川賞と同時に直木賞を受賞した角田光代が出演し、番組からの要請で自分自身のオーラのなさについて書いたエッセーに「旅先三日目」という題名をつけた。異国の旅先でさえ三日も滞在すれば自分が誰でもなくなる、その瞬間のさっぱりした気持ちからオーラのなさが自身の作家たるゆえんだという。
久保田早紀は唯一のヒット曲『異邦人』の収録されている『夢がたり』というアルバムで「名前も姿も顔も過去さえも変われる国まで飛ばして」と作詞している。その後、久保田早紀はカトリック教徒になることで「誰か」になったとして、世の中には自分が誰でもないことによって誰かであるような人が存在する。
たいていの人は自分が何者かであることを疑うことさえ思いつかずに日々生活しているが、少数の人は自分が何者でもないことを恐れている。それら少数の人はさらに、自分が何者かでありうる場所をさがしている人と、自分が何者でもないことによって何者かでありえている人に分けられる。僕はどうやら自分が何者でもないことに恐れるあまり、何者かである場所を探し続けているようなのだけれど、最近分かってきたことは、どうやらそんな場所などどこにもなさそうということだ。