矢野絢子「ニーナ」

■映画やドラマの主題歌などではなくて、純粋に歌だけを聴いて泣いたことなど今までなかったと思う。矢野絢子『ナイルの一滴』の中の「ニーナ」を聴いて不思議なほど涙がぼろぼろこぼれた。物語性の強い歌詞のせいもあるが、その物語性をあえて抑えるよう単調な反復、それでいてクライマックスでは異なる旋律が不意に現われる音楽上の適切な演出が、甘ったるさのないストイックな声質とともに歌詞の物語にぴたりと寄り添っているからこそこれだけの感動が生まれるのだろう。矢野絢子の声は少し聴いただけでは少年少女合唱団のようにただ力強くまっすぐな発声法だけかと思わせるが、声の細部の表現を注意しながらアルバムを通して聴くと、さまざまなスペクトルがあることが分かる。最近の女性ボーカルは殆どがホイットニー・ヒューストン系列のころころファルセットに転がる声の技巧面で評価されるが、矢野絢子は大胆な率直さと繊細さが奇妙に同居する、言わば心の奥底から直接届く響きで評価できる少数派ではないかと思う。それにつけても伊集院光が深夜ラジオで彼女の最新シングル『氷の世界』(勿論井上陽水のカバー)をかけた後、「なんじゃこりゃ!」と罵声を浴びせていたのはただただ腹立たしかった。彼女のアルバムを聴いてみようと思ったのは伊集院光のこの下劣さに対する軽蔑もある。

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