リニアな世界観の限界

■2005/01/31の日経朝刊で、元米国通商代表部、現日本NCRの共同社長という人物が、自ら経営コンサルタントとして日本企業に経営改革を提案し、その部分的実行までに3年もかかった体験を引きながら、経営改革を阻止する五つの壁として「認識の壁」(=そもそもわかってない)「判断の壁」(=判断が甘い)「納得の壁」(=無理だとあきらめる)「行動の壁」(=計画だけ作って安心する)「継続の壁」(=三日坊主)をあげ、そして日本企業の経営改革に時間がかかるのは人材の流動性の低さが一因だと書いている。
いかにもアングロサクソン的な、リニアな因果論、キリスト教的終末論だ。アングロサクソンは世の中を、原因と結果が連鎖する、始まりと終わりのある一本のチェーンと見る。アジア人はさまざまな事象が互いに原因でもあり結果でもある網の目と見る。日本の労働市場の流動性が低いことと、日本企業の経営改革が遅いことは、お互いが原因となり結果となっており、一方を解決すれば他方が解消するのではない。労働市場の流動性を高めようとすれば、他の複数の要因がそれを阻害する。
アングロサクソン的世界観にもとづくコンサルティング手法は同じ世界観にもとづく組織に対してしか効果をあげない。現日本NCR共同社長の改革提案が三年を経ても一部しか実施されなかったのは当然であり、彼の議論はアングロサクソン的世界観の押し付けでしかない。
ただし、唯一、アングロサクソン的世界観の押し付けが日本企業に対して機能する場合がある。それは米国が外交で常にそうするように、力にものを言わせる方法だ。企業経営の改革なら、資本の力にものを言わせてその日本企業を買収し、経営陣をアングロサクソン化すればいい。これが唯一、アングロサクソン的な意味での日本企業の経営改革を成功させる方法だ。
そう考えると日本の政治問題について、通常の政権交代の文脈で現日本NCR共同社長の議論を援用するのはあまり意味がない。米国が軍事力にものを言わせて日本の総理大臣を共和党党員の白人にすれば、懸案の構造改革はあっという間に実現するだろう。敗戦直後GHQの強力な指導下であっという間に「民主化」が実現したように。この選択肢は明らかに非現実的なのだから、日本人はむしろ自分たちの改革能力の限界を自覚することから始める必要がある。