自己満足の善意

■朝の通勤電車で最近こんなことがあった。都心に入って空いてきた車内、座っている僕の左隣には会社員が例によって腕を組んで大股開きという下品な姿で熟睡し、右隣には一人半くらいの空間があいている。そこへOLが座り、僕との間に少し隙間があったので「どうぞ座ってください」と言わんばかりにその空間を広げた。それでもコートで着膨れした中年サラリーマンにはとても座れそうにない。ところがOLが隙間を広げたところへたまたま通りかかった小太りの中年サラリーマンが僕とOLの間に無理やり割り込んだ。僕もそのサラリーマンも落ち着いて座っていられたものではないくらいにすし詰めになり、僕は下車駅までもう2駅しかなかったので仕方なく立ち上がることにした。するとサラリーマンはあわてて「いやいや、どうぞ座ってください。そんなつもりじゃなかったんです」と僕のコートをひっぱって元の位置に座らせた。「となりの方のところが空いていたもんですから」と言って、そのサラリーマンは僕の左隣で熟睡していた会社員のさらに左側に空いた隙間を指差してから、隣の車両へ空いた座席を探しに去っていった。このちょっとした騒ぎで気持ちよく熟睡してた会社員は目を覚ましてしまった。そしてOLは相変わらず澄ました顔で座っている。このOLのマスターベーション的善意は唾棄すべきものだ。OLは少し横へずれて空間を作ることで自分の善意を満足させたが、その空間は大人一人座れない無駄な空間だ。かえってそのために通りすがりのサラリーマンは妙な気を遣うはめになり、僕はそのサラリーマンに申し訳ない思いをし、左隣の会社員は安眠を破られた。人さまの為になるどころか三人に不愉快な思いをさせた善行で、自己満足にひたるOLはその後も澄まして座りつづけ、僕とOLの間の誰も座れない空間はそのまま虚しく口を開けていた。