河瀬直美『沙羅双樹』

■河瀬直美監督『沙羅双樹』(2003年)を観た。DVDに収録されているメイキングの中でインタビューに答えて、監督は映画制作を得意なカレーライスでお客さんをもてなすことにたとえている。故郷の奈良を舞台にするのは秘密のスパイスを効かせて、いかに観客に楽しんでもらうか、それが映画を作るということだと明言している。
しかし『萌の朱雀』(1997年)もそうだったが、監督の作品は時に説明を省略し過ぎる。『沙羅双樹』についても予告篇を見ない限り、冒頭のシーケンスが「双生児の一方が神隠しにあった」様子を描いていることは分からない。少なくともあの兄弟が双生児であることは、カットされなかった脚本では一度も語られないままである。双生児であることを映画の題名から想像しろというのは無理な話だ。どちらかと言えば映画マニアである僕にとっても明らかに説明不足の脚本は、客観的に「観客を楽しませるための映画」などとは決して言えない。
もちろん僕はそれが悪いと言っているのではない。監督は自分の作品が極めて限られた観客にしか受容されないことに自覚的になった方が、もっと個性むき出しの素晴らしい作品を産み出せるのではないかと考えたのだ。手持ちカメラでワンシーン、ワンカット、同時録音のドキュメンタリー手法。俳優の演技も最小限に抑え、感情の抑揚もなく淡々としている。監督も言うように演出によって徹底的に作り込まれた超・人為的な「普通」である。その極北が神隠しにあった弟の生まれ変わりが産まれるという大団円によって、非常に嘘っぽい「ドラマ」になり果てている。それが気になるのだ。

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