新藤兼人『縮図』

■新藤兼人監督『縮図』(1953年)を観た。溝口健二監督の薫陶を受けているにもかかわらず今まで一本も観たことがなかったので、レンタルビデオ屋にずらりと並んでいた新藤監督作品のDVDから、初期の作品を適当に選んだのがこの作品だった。
監督第四作で、原作は貧しい靴屋の娘が身売りされ芸者として身も心もズタズタになりながら家族を支えるために力強く生きぬくという徳田秋声の自然主義小説、主演は靴屋の娘・銀子役で乙羽信子、その父親役が宇野重吉、銀子を身請けする役で山村聡、山田五十鈴も出演している。
こんなにカメラがよく動く映画は久しぶりに観た。前半、芸者になったばかりの銀子が客とじゃんけん遊びをするシーケンスで、人物に寄っていくカメラがゆっくりねじを回すようにねじれていく動きや、人物の上からカメラがかぶさって乗り越えるような動き。ねじれる動きはスムーズなので機械的な機構だろうが、人物を見下ろしながら乗り越えるカットは手持ちらしくカメラが揺れる。今ならステディカムででも使うところなのだろうが、そんなものがない時代にこういうカメラの動きを要求した先進性には驚く。
もう一つ印象的だったのは、芸者の弾く三味線のアップだ。よくロックバンドのギタリストの華麗なフィンガリングをクローズアップにするため、ギターのネックの先にCCDカメラを固定して、遠近法の奥行きを効かせてフレットを撮っている絵があるだろう。新藤監督はあれを三味線でやっているのだ。もちろんあの時代に小型カメラなどないので、三味線の棹の先にカメラを固定する代わりに、おそらくカメラに三味線の棹の先を固定して、そのまま演奏させていると思われる。
本作は脚本が自然主義小説だし、新藤監督はリアリズムの作風だとも言われるが、宇野重吉演じる父親が作業している様子を、広角レンズをつかって俯瞰でとらえる奇妙に丸っこい絵なども、絵はかなり意図的に作り込まれている点が印象に残った。