矢口史靖『アドレナリン・ドライブ』『ウォーターボーイズ』

■久しぶりに短い間にたくさんの映画を観て、やっぱり映画は僕が帰っていくべきひとつの場所だと感じたので、前回日記を書いてから矢口史靖監督『アドレナリン・ドライブ』(1999年)『ウォーターボーイズ』(2001年)を観た。これで矢口氏単独での監督長編作品はあと『ひみつの花園』(1997年)を残すだけだ。
近所のTSUTAYAにはないのでなんとかどこかのTSUTAYAで探し出さなければ。こういうときに会員証が全店舗共通になったのは便利だ(目ざとい読者ならすでにTSUTAYAについてのエッセーが削除されていることにお気づきかもしれない)。『ウォーターボーイズ』はおそらくいちばん商業的には成功しているのだろうけれど、脚本としてはほぼ破綻している。
『スウィングガールズ』のパンフレットの中で監督自身が語っているように、竹中直人演じる水族館のイルカの調教師役は「超ご都合主義」が本領の矢口脚本にしても、位置づけのよくわからない役柄になっている。プールの水道料金や魚の弁償など、金銭的な問題が出てくるのに、男子高校生たちの家庭環境はまったく隠されたままだ。その意味で『ウォーターボーイズ』は脚本・映像とも、男子高校生たちだけに依存しすぎていて映画としては計算が甘い。
『アドレナリン・ドライブ』ははるかに超ご都合主義的脚本が冴えていて、最後のどんでん返しも粋なハッピーエンドとして、純粋にフィクションとして十分楽しめる。それ以上の感想についてはYahoo!JAPAN MOVIEに書いたレビューを参照いただきたい。たいしたことは書いていないけれど。
このレビューで書いたジャンピングカットだが、そう言えば『スウィングガールズ』でも高校野球の予選大会で、山河高校攻撃の九回裏、ラストバッターの最初の2ストライクのシーンで使われていた。
それからこれら3作品に共通する要素として眼鏡の女の子がいる。このテーマについても『ウォーターボーイズ』は消化不良だが、『アドレナリン・ドライブ』の石田ひかりと『スウィングガールズ』の本仮屋ユイカは脚本でよく活かされている。テレビのニュースにしても3脚本共通で、矢口監督のお決まりの道具立てのようだ。『アドレナリン・ドライブ』では石田ひかりが札束の入ったナップサックを横取りした男を救命して警察表彰される下り、『ウォーターボーイズ』では高校生たちがスクープ狙いの一般市民の誤解から一躍有名人になってしまうシーン、『スウィングガールズ』ではご承知のとおり食中毒の場面で使われる。
そういえば警察表彰というのは『アドレナリン・ドライブ』と『スウィングガールズ』に共通する道具立て。軽快なアコースティックギターでBGMが処理されている部分もよく似たシーンが見つかる。要するに矢口監督作品は、やはり一連の大いなるワンパターン・スラップスティックコメディーとしてアタマをからっぽにして楽しむコメディだということがよくわかる。しかも最近の邦画のコメディとしては、演出はかなり上品である。
『ウォーターボーイズ』で、『ベニスに死す』のマーラーの交響曲第五番第三楽章が流用されていたのにはすこし驚いたが、こういう名作の引用やパロディに限らず、矢口監督は基本的にクローズアップからロングショットまで、とてもまじめに演出をする人であることがわかる。だから僕のようなクソまじめな人間が観ても心から笑える映画をちゃんと作れる監督なのだ。今から次回作が楽しみである。