橋本治『上司は思いつきでものを言う』

■『歴史をかえた誤訳』をあっという間に読み終えた後、ふたたび書店でどの本を読むかに悩んだあげく、橋本治『上司は思いつきでものを言う』(集英社新書)を買ってしまった。この本についてもこのページの読者のみなさんには残念ながら読む必要はないの一言だけを伝えておきたい。
養老毅とは違って橋本治なんだから、読む必要はないなんてことはないだろうという反論が待っていそうだけれど、少なくとも自分で買って読む必要はない。読むなら図書館で借りることだ。Amazon.co.jpの同書のページに日経ビジネスに掲載された書評が転載されているが、そこに書かれている以上のことは書かれていない。つまり400字くらいで要約できることが極めて散文的にだらだらと、あちこちに話題が飛躍しながらとても分かりにくい比喩で書かれている。
しかも実際に「会社」で日々生活している会社員にとって実践的に役立つことは、「思いつきでものを言う上司に対しては、あからさまにあきれて見せましょう」ということ一つだけだ。このたった一つのことを学ぶために221ページもの新書を読む時間は会社員にない。なのでこのページの読者の中の会社員が時間を無駄にしないために、同書を読む必要はないとお伝えしておく。
日本的会社組織の起源を儒教思想に見ているのはありふれた論の流れだし、日本的資本主義の特殊論は会社員にとっては読み飽きた感があるだろう(PHPという出版社から腐るほど出ている)。あとがきによれば橋本治は出版社の「出入り業者」である物書きとしての立場からこの本を書いたのだと言うが、やはりサラリーマン社会の外部の人間であることを露呈していて、自分の書いていることがいかにサラリーマン社会の中で保守的に響いてしまうかに極めて無頓着であるように思える。できれば橋本治の一ファンとして、氏には純文学や文芸批評、映画批評に集中してほしいと思わずにいられない。