自閉症の病理学的分析

■今読んでいる『自閉症の謎を解き明かす』、中盤からは自閉症の病理学的分析が平易な記述でわかりやすい。他者の感情の動きを理解できない点が、中枢神経の欠陥からくる自閉症の根本にある病理であると論じている。例えばAさんとBさんが舞台に登場し、Aさんが舞台上にある箱の中に自分の人形をしまって退場し、Bさんがちょっとした意地悪で箱の中の人形をそっとソファーの後ろに隠してしまう。再びAさんが舞台上に現れたとき、Aさんは自分の人形をどこに探すか。通常の知能水準の子供も、知能水準の低い子供も、箱の中を探すと正しく答えるのだが、自閉症児だけは高い確率でソファーの後ろを探すと答えてしまう。
自閉症の一つの症状として言葉を文脈の中で理解できないということがある。冗談やウィットは自閉症患者にまったく理解されない。逆に自閉症患者は場違いな発言をして周囲を戸惑わせる。他人の表情やしぐさに意味を読み取るなどのメタコミュニケーションをとることができない。これらの記述を読んでいて、僕は日本の会社生活にまったく馴染めないでいるドイツ人上司のことを思い出した。
母国の、特にベルリン人同士の直截な意思疎通とは全く異なる、日本人独特の婉曲で寡黙な意思疎通に、日々当惑するばかりの彼は、周囲の日本人に何度も文脈に依存しない意思疎通をするように協力を呼びかけていたが、その努力は虚しかった。四十年以上も日本人だけで生活してきた日本人に今さら文脈に依存しない意思疎通ができるわけがない。言葉の裏を読むなというのは、人間ではなく機械になれと言っているようなものなのだ。現にこのドイツ人自身、自分のベルリン的直裁な意思疎通をほとんど変えることができていなかったのだ。結果として彼は、いわば病識のある自閉症児として振舞わざるを得なかった。彼がときに無垢な子供のように思えたとしたら、それが原因だったかもしれない。