中井久夫『徴候・記憶・外傷』

■中井久夫が面白かったので、毎週末に訪れる近所の図書館で同氏の著作を探していたら、何と2004/03に公刊されたばかりの『徴候・記憶・外傷』(みすず書房)が入っているではないか。『自閉症の謎を解き明かす』を読んでいる途中であるにもかかわらず、迷わず借り出した。さまざまな場所で発表された論文、エッセー集で、まだ最初の部分しか読んでいないが、精神医学書の枠を超えて、人間についての哲学書になっている。
僕が精神医学関連書を最近読んでいる理由は、精神病・神経症が人間の周縁的な事態であるために、人間とは何かを境界線の側から問う有効な問いになっていると考えるからだ。人間をその中核にある事態から問うか、境界線の側から問うかというアプローチの違いがあるだけで、どちらも人間を主題化していることには違いない。
『自閉症の謎を解き明かす』の中で、The Whoのロックオペラの主人公であるトミーが、自閉症患者から着想を得ていることが説明されているが、その他にも、常に冷静で、身のまわりで起こる現象の情緒的な側面を完全に切り捨てる名探偵にも、自閉症患者に典型的な症候が読み取られている。そして他人の感情の動きをとらえる能力の欠如という点で、自閉症患者がロボットやチューリングマシンと人間の境界線上の存在であることを示唆している。あるものがなぜそうであるのかを問うときには、同時に、なぜそうでないのかも問わなければならない。