金井美恵子『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』

金井美恵子『彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄』(朝日文庫)を読んだ。
よくもまあこれだけのとりめのない会話と毒舌が一つの小説になるものだと思うが、会話文と地の文が区別なくつづく息の長い一文という作者持ち前のスタイルによって、それらの会話も含めた世界に対する語り手の距離感がたもたれ、これらの毒舌の下品さを緩和しているのかもしれない。
ある種の人間たちに対する語り手の軽蔑はときに露骨すぎるほどだが、彼らに直接語られることはなく語り手の内部で反響するだけであることによって、語り手が最低限の社会的な倫理といったものを実行しようとしているとでも作者は書きたいのだろうか。
もちろん作者はそういった倫理を肯定しているのでも否定してるのでもないと言い張るのだろうが、語り手がそれらの人々に直接自分の軽蔑をぶちまけることを書かないことをなぜ選択しているのかについて、この小説のなかのどこかに説明されているということなのか。
小説そのものとしては楽しく読め、僕自身もあの種の人間たちに対する軽蔑には事欠かないわけだが、そうした小説をあとがきで自画自賛してしまう金井美恵子には少々吐き気を催したということを付け加えざるをえない。ちなみに金井美恵子の小説を読むのは学生時代に『愛の生活』を読んで以来だと思う。