税金の無駄遣いで悪名高い京都「私のしごと館」

■税金の無駄遣いということで悪名高い京都「私のしごと館」を、とある事情で訪ねた。
京都という名前が付いているので京都の街中にでもあるのかと思ったら、近鉄京都線で京都駅から半時間、駅からさらにバスで10分、なだらかな山地に突如として姿を現した一戸建ての住宅地区のはずれに、ガラス張りの建造物が道路と並行に城壁のようにそびえている。
博覧会のパビリオンのような館内へ入っていくと、上階まで吹き抜けの広々した受付に、見上げると巨大な画面に自分の仕事について語る人々のインタビュー画像が流れ、遥か向こうまで続く吹き抜けの建造物を眺めわたすと、手前から土産物店、ノートパソコンが100台以上並ぶ仕事検索スペース、その向こうには図書室が眺められる。
受付のすぐそばから上るエスカレーターの行きつく先を見上げると、オレンジ色の椅子とテーブルがこれも五十組は並んでいるだろうと思われる休憩スペースの一端が見える。展示物や建物の内装はSF小説に登場する宇宙ステーションといった近未来的な意匠で、ここはいったいどこだったろうかとあやしくなってくる。訪ねる前はしゃれた職安だとばかり思ってたのだが、実際には小中学生が将来の職業選択のためにさまざまな仕事について学ぶ施設であることが分かった。実際僕がおとずれた金曜日にも中学生とおぼしき団体客がおり、アナウンスの呼び出しでははるばる島根だか鳥取だかからやってきた修学旅行の一団のようだった。
受付で700円という高額な入場料を支払って入館すると、電車の運転手、金型職人、旅行代理店の事務、瓦職人など、さまざまな職業の紹介が何の脈略もなくぜいたくなディスプレーで続いていく。人工衛星用の精密部品加工などを説明するコーナーは、なぜか小さなプラネタリウムのような薄暗いドームがあり、そこからぶら下がっている人工衛星の模型にレーザー兵器のようなビデオカメラでモニタを確認しながら照準を合わせてボタンを押すと、意味は不明だが「ロックオン」したということになって、その衛星に使われている技術を仕事としている人のインタビュー動画が始まるという、非常に迂遠で凝った仕掛けになっている。
いくら子供が相手とはいえここまで金をかけた展示にする必要があるのかと考えたが、参考までにこの仕掛けで遊んでいる修学旅行生は一人もいなかった。そしてこのプラネタリウム状のドームの真下には1メートル四方のパネルが直立しており、小さな液晶画面が縦横10個四方、合計100個ほどはめ込まれたものがゆっくりと回転している。その画面一つひとつにはテレビ番組がリアルタイムで流れており、おそらく人工衛星がテレビ放送の電波中継に使われているという意味なのだろう。
ことごとさように展示にいちいち金がかかっているのだ。この調子でじつに様々な仕事が100種類近く紹介されており、展示の中盤には体験コーナーと称して、じっさいに仕事をやってみることができる。ちなみに参加するには14時までに受付で予約する必要があるので、興味のある関西在住の方はご注意を。体験コーナーには美容院、編集スタジオ、CADオペレーション室、老人介護室、宇宙船内の実験室などなどが当然ながら実物大で設置され、さきほどの修学旅行生たちが指導者に教えられながら作業をおこなっていた。
この「しごと館」で驚かされるもうひとつのことはスタッフの人数の多さである。もしあの修学旅行生たちがいなければ、おそらく館内には僕ら入場客の倍くらいの女性スタッフがいることになっただろう。展示コーナーのそこここに白ジャケットに白シャツ、黒スカートという冴えない服装のコンパニオンが立っており、積極的に説明をしかけるわけではなく、話しかけられれば愛想よく応対してくれるものの、僕が唯一かけられた言葉は「館内は撮影禁止となっております」だった(つまり僕はこのSFチックな館内を一眼レフで撮りまくっていたわけだが)。
コンパニオンが積極的に説明する必要がないのも当然で、受付でレシーバーを貸出してくれるのだ。首から下げ、イアホンを耳に入れて館内を歩けば、それぞれの場所に近づくと自動的に説明が流れてくる。本当に何のためにあれだけの人数のコンパニオンがいるのか分からない。
さて、体験コーナの最後には様々な工場のラインまでがあり、部品加工ラインでは白髪まじりの男性が一人ぽつんと工具の手入れに余念がない。他には食品加工ライン、時計組み立て、なぜか知らないが「リカちゃん」の組み立てまで体験できる(リカちゃんの前髪は最終工程でカットするまで後ろ髪と同じ長さ、つまり顔がまったく見えない状態だということを初めて知った)。体験コーナーを抜けると、仕事の歴史ということで江戸時代以来のさまざまな職業の人々の蝋人形がならんでいる。近未来の職業ということで立ったままノートパソコンをあやつるスーツ姿の男性の像があり、足元の説明板には「畑作従事者」、これからの農民は畑の様子を遠隔監視するのだと書いてあるが、雑草は誰が抜くのだろうか。
それらの展示コーナーを抜けると100台以上のノートパソコンがずらりとならぶ仕事検索スペースがあり、質問に答えていくと適職を教えてくれるシステムや、その職業に実際についている人々のインタビューを動画で検索できるシステムが稼動している。それぞれの職業についてより深く知りたい場合はビデオブースも数十個あり、一時間以上の職業紹介ビデオを閲覧できるようにもなっている。こちらはなぜかデジタルではなく、アナログのVHSビデオが背後でおそらく自動ライブラリーシステムでデッキに挿入されているらしい。
仕事検索スペースからさらに一階下りると図書室、受付の方へ一階上がるとなぜか土産物店がある。「しごと館」に関係のある土産は数えるほどしかなく、他はすべて京都土産で、やはり修学旅行生が主な対象顧客と思われる。しかし受付近くの休憩椅子で広い襟ぐりからブラジャーのストラップ丸出しでくつろいでいた黒のカットソーに黒のパンツ、茶髪のお姉ちゃんは一体何をしに着ていたのだろうか。
修学旅行生の団体は田舎から出てきているせいか、かなり「しごと館」を楽しんでいたようで何よりだが、この巨大な施設、おそらく空調費だけでも莫大な維持費になるだろから永久に採算が取れないのではないかと恐れる。
■この2か月で東武動物公園、上野動物園、多摩動物公園、野毛山動物園、千葉市動物公園、京都市動物園、天王寺動物園と、動物園をはしごして動物の表情をアップで撮影しまくっているのだが、手に触れられる距離のヒツジやヤギ、ウサギ、テンジクネズミなんかを見ていると無性にかわいくて限りなく癒される。
レッサーパンダが短い足で不器用そうに歩くのも見ているだけで癒されるが、レッサーパンダを見るなら野毛山動物園(横浜・桜木町)がいちばん、次は上野動物園。ウサギといちばんふれあえるのは野毛山動物園。ライオンの夫婦がイチャついている様子に当てられたいなら京都市動物園。運がよければ交尾の真似ごとも見られる。
トラの赤ちゃんをガラス越しに間近で見たいなら多摩動物園。キリンのつぶらな瞳で見つめられたい場合は多摩動物園。天王寺動物園は敷地が広い割りに、面白いのはチンパンジーくらい。そういえばあおむけにねそべって股間をぼりぼりかいているだらしないカンガルーが見たいなら京都市動物園。チンパンジーがあおむけにねそべっているその足の裏を目と鼻の先で見つめたいなら上野動物園。個人的にはディズニーランドなんかよりよほど飽きないし、癒される。その割りに休日に行ってもすいているし、入場料は安い。人間であることに疲れたら「野獣化計画」、動物園へ行こう。
■この週末に船川淳志『人気MBA講師が教えるグローバルマネジャー読本』(日経文庫)、藤井誠二・宮台真司『この世からきれいに消えたい。―美しき少年の理由なき自殺』(朝日文庫)と2冊も読んでしまった。後者については近日中にまとまった感想を書くかもしれない。