石井ふく子演出にひと言

■石井ふく子が気に入らないなら何が良いのかというと、言うまでもなく小津安二郎のような極限まで抑制された演出だ。見るものの感情移入を特定の感情表出の形へと強制するような演出は評価できない。受け手による解釈の可能性を最大限に残しながら、演出家の意図が何であるかについては正確に伝えるといった演出でなければダメだ。
特にそれが日常生活のような誰もが体験する状況を題材としている場合にはそうだろう。誰も体験しない架空の状況設定であれば、むしろ感情表出の形式を具体的に特定した方が、そうでない場合について受け手の想像力を喚起できる。
しかし家庭を舞台にして日常生活を題材にする場合には、すでに受け手は自分自身の感情表出を日常的に行っている。それに対して演出家が自分だけの独創的な感情表出を提示できると考えているのなら、思い上がりだろう。むしろ受け手一人ひとりの感情表出のかたちを尊重して、演出家としては自分の意図を伝えるために必要な最小限の水準にまで、演出を切り詰めるべきである。