日常生活ではたまにどう考えても理屈に合わないことというのが起こる

■日常生活ではたまにどう考えても理屈に合わないことというのが起こる。今日、帰りの電車の中で途中から運良く座席に座れた。しばらくすると左隣の席が空き、かわって体のがっちりしたサラリーマンが例によって大股開きでどっかと腰掛けた。携帯電話で必死にメールを入力しているその右肘で、文庫本を読んでいる僕の左肘を強烈に押してくる。まぁこれはやたらと体ばかり大きくて頭は空っぽなサラリーマンにありがちな態度だから黙って辛抱するよりほかない。ところがしばらくして今度は右隣の席が空き、かわりに乗ってきた駅から明らかに女子大生と分かる若い女性が座った。女性は男に比べれば華奢なので肘で少しでも自分の場所を広く確保しようなどという浅ましい行動に出る人はいない。ところが、である。その女子大生がトートバッグから携帯電話を取り出して、やはり親指をつかって必死でメールを入力し始めるや否や、左肘を僕の右肘と彼女の体のすき間にものすごい力で割り込ませようともがき始めたのだ。僕としてはそれほど混雑していない車内で、しかも向かい側には空いている座席もあるというのに、なぜそれほどまでにこの女子大生が必死に自分の座っている空間を左肘で押し広げようとするのか、しかもそれまでは何の主張もなく座っていたにもかかわらず携帯電話でメールを入力し始めることをきっかけに突然、性格が豹変したかのように左肘で僕の右肘を痛いほど押し分け始めたのか。僕の右肘が痛いということは、それほど筋肉質ではない彼女の左肘も相当痛いはずなのに、それほどまでして携帯電話を入力するためのお決まりの姿勢を形成したいとでもいうのか。こちらはできるだけ両脇に座っている人に迷惑をかけないように肘を横へ押し広げることなく、文庫本を膝の上で読むのにぎりぎりの横幅しか占有せずに座っているだけなのに、その僕からなおも横幅を奪い取ろうと肘で両脇から侵攻してくるこの二人はいったい何者なのだろうか。そこまでして空間を広げたいことの理由がまったく理解できないのだ。僕は何となく馬鹿らしくなって大仰に文庫本を持ったまま両手を前に差し出し、ちょうどバレーボールのレシーブのような両腕の形をとって「はいはい、そんなに肘を広げたいんだったらどうぞ」という格好を一瞬とってから、ゆっくりと立ち上がって電車から降りた。ちょうど自宅の最寄り駅に着いたところだったので。誰かあの女子大生の心理を合理的に説明できる方は教えてほしい。通勤電車の中では押されようが何されようが、その人がそうせざるを得ない理由が容易に想像できるのであまり腹を立てないが、今日の女子大生の行為だけは理解に苦しんだ。