川上眉山『大さかづき』『ゆふだすき』

■川上眉山は器用貧乏な作家だったのだろうか。同じく筑摩書房の明治文学全集で『大さかづき』(明治28年)と『ゆふだすき』(明治39年)を読んだ。『大さかづき』は渡米して肉体労働によってひと財産築いた男が、結婚を約束した女も、唯一の係累である父親も、自らの命も失ってしまうという厭世主義100パーセントの短編。
こういうのをいかにも川上眉山らしい「観念小説」と呼ぶらしいが、晩年の『ゆふだすき』はうってかわって自分の妻との結婚の経緯を読者に向かってのろけるような作品で、両者は文体もまったく違う。さまざまな文学運動が乱立した明治時代に眉山は時代の流れに翻弄されつづけ、ついにどこにも安住できずに40歳で頚動脈を掻き切ったということか。
でも社会派小説にしても厭世主義にしても浪漫主義にしても、それなりにこなれているので、これらさまざまな顔をコラージュした作品を書いたならば、もっとも眉山らしい作品ができ上がるのかもしれない。現代日本文学全集の『書記官』『うらおもて』も読んでみたい(が、近くの市立図書館が整理期間中で4月になるまで開館しないんだなこれが)。