川上眉山『観音岩』

■『観音岩』と川上眉山でWebを検索してもそう件数は出てこない。1919年に日活が白黒・無声映画にしているようだがキャストは不詳。僕が読んだ明治文学全集の解説によれば岩波文庫化されたこともあったらしい。硯友社の戯作的作風に嫌気が差して内田魯庵らの社会小説に傾いた後、明治36年の作品。10年前の『賤機』はかなり幻想的、浪漫主義的で、作風に苦悩していたということか、それは他の作品も読んで確かめたい。
『観音岩』冒頭で自殺を遂げるのは主人公・正也の学友・石巻だが、その死の背後には故郷で石巻家が「村刎ね」にあっていることがあると正也は知る。石巻の父を弔問した正也はその妹・幸子を東京のわが家に引き取り、相応の教育を受けさせることを請合う。
村で「坂の上」と呼ばれる有力者によって9年間も迫害され、一人息子が自殺してなお「機が来れば」と忍耐する石巻の父に正也は秘策を嗅ぎとる。ところで正也には幼なじみの千枝子があるが、悩んだ末に郷里で学友の名誉を回復すべく幸子との結婚を決める。村人たちは石巻家が東京の有力者である正也一家との関係を深めることに危機感を抱き、挙式の準備で帰郷していた幸子を村の白痴に誘拐させる。
幸子は貞操を守るため観音岩から身を投げる。二人の子を失い、悲嘆に暮れてなお「機が来れば」と繰り返す石巻の父に正也はさすがに苛立つが、幸子の葬儀が終わったまさにその日、村を30年ぶりの大水が襲う。瀕死の村人たちを石巻は一家あげて救助し、「坂の上」の命をも救い、米の備蓄を惜しげもなく差し出す。村人たちは石巻の真意に触れて改心し「村刎ね」は過去のものとなる。これが石巻の父が待っていた「機」であった。正也は石巻の媒酌で千枝子と結婚することになり、村で挙式する。正也と千枝子は式の場で第一子を石巻の遺産相続人とすることを誓うのだった。以上が『観音岩』の概略だ(超ネタバレ)。