連休で飼い主の不在なせいか

■連休で飼い主の不在なせいか、朝隣の家の犬が吠えやまない。吠え方に特徴があり、3つずつまとめて吠える。妻の説によれば休日に惰眠をむさぼる僕を起こそうとするのだそうだが、こちらは遅い朝食を終えているのにまた3つずつ吠えだす。以前も同じような発作を起こしたときは主人がよしよしとなだめる声とともにすぐにやんだが、止める人がいないので際限なく吠えつづける。すると声がかれて裏返ったようになる。それでも吠えようとするので喉の奥がひきつれて胃を吐き出しそうな勢いだ。ちり紙交換の拡声器にこたえて遠吠えするのは、狼の本能が残っているので仕方ないとして、泥棒が忍び込むのでもないのに吠えつづけるのはいったいなぜだろうか。不在の主人を呼び戻そうとするのかもしれないが、はるか遠くの人間に自分の声が届かないことがわからないほど犬はバカではあるまい。主人が餌を残し忘れて空腹で吠えるのかもしれないが、吠えればなお腹が減ることくらいはわかりそうなものだ。あれこれ考えた挙句、僕はひとつの結論に達した。あの犬は精神に異常を来たしてしまったのだ。犬が吠えるのには必ず何かしらの意味がある。人間が言葉をつかうところを、言葉というものを知らない犬は自分の意志を仲間や人間に伝えようとして吠える。つまり普通の犬は意味もなく吠えるということをしない。ところが隣の犬は自分が吠えることに意味をもとめない。吠えるために吠える。ただ吠えるのである。それは犬の仲間からの根本的な決別だ。己は犬の姿をながら他の犬とは違って何の意味もなく吠えてしまっている。そうした孤独感が犬をしてさらに吠えさしめる。吠えれば吠えるほど己の吠え声だけが虚しく初冬の朝の乾いた空気の中に響く。その虚しさと孤独を埋めるためにはなお吠えるより他ないのだ。ワン、ワン、ワン。その吠える声が耳につきささる。