大岡昇平『俘虜記』

■もう9月。とうとう『俘虜記』を秋に持ち越してしまったが、やはり面白いことには違いない。対象とする時代にかかわらず僕は歴史小説やテレビの時代劇が大嫌いだ。理由は過去を通して現代を描こうという迂遠な修辞法が、表現者の選択する表現方法としては姑息としか思えないからだ。
現代の問題を描きたいなら現代を舞台にすればいい。客観的な歴史(そんなものがあるとしての話だが)を描きたいなら小説やドラマ仕立てにせず、教育番組的なつくりで十分だ。人気の役者を配して過去を「現代的な再解釈」で描くなどというNHKの大河ドラマ的な手法は表現としては唾棄すべきものだ。
その点『俘虜記』は一般的に言われる「戦記もの」ではなく、日本人捕虜収容所という特殊な状況下での冷淡な観察記録で、観察者自身の偏見をも自己反省的に記述に含めている意味で、ルポルタージュについてのルポルタージュといういわば「メタ・ルポルタージュ」になっている点が非常に面白い。