『ゴーンさんの下で働きたいですか』は読む価値なし

■『ゴーンさんの下で働きたいですか』(長谷川洋三・日経ビジネス人文庫)は読む必要のない本である。さまざまな報道やビジネス誌で再三取り上げられてきたゴーン氏に関する記事を寄せ集め、他企業トップの談話や米倉誠一郎まで持ち出してごちゃまぜにしただけの本だからだ。
帯に「瀕死の日産を甦らせた言葉『コミットメント』とは?」と思わせぶりなことが書いてあるが、要はルノーと提携するまでの日産トップが合理化への決定的な一歩を踏み出す勇気がなかったというだけの話である。「身内からは切り出しにくいので、第三者に物を言わせる」という、いかにも日本人的な身内意識を捨てきれなかったというだけのことだ。
ゴーン氏のやったことは徹底したコスト削減と明確なビジョンの提示、というきわめて当たり前のことなので読み物としてはまったく面白くない。逆に言えば、当たり前のことをしさえすれば甦る日本企業はいくらでもあるのに、いかに日本企業のサラリーマン経営者がそれをできていないかということの裏返しでもある。
ただし僕個人としては徹底した合理主義にやや疑問を感じるということもひとこと添えておきたい。企業が長年の惰性で水膨れしたら、ムダを切り捨てさえすれば資金に余裕が生まれ、新たな戦略展開が可能になるというのは小学生でも分かる足し算・引き算だ。それで日産という一企業は甦ったかもしれない。
鉄鋼業界の再編にまで波及した日産の合理化努力は、確かに短期的に見れば成功なのかもしれないが、長期的に見たときにそれが「善いこと」であると一体誰が判断できるのか。当たり前のことを実行しただけのゴーン氏を、まさにこの本のように日本企業の救世主のように書き立てるのは「正しい」ことなのか。
著者のジャーナリストとしての資質にもかかわることだが、僕はここまで楽天的にゴーン氏を賞賛する書物をものす態度については、かなり疑問を抱いてしまうのである。日経新聞出身者ならではの合理主義礼賛という限界であろう。