吉田育代『日本オラクル伝』

『日本オラクル伝』(吉田育代著・ソフトバンク刊)を読んだ。日本オラクルが米オラクル社の海外法人としては非常に特殊な独立性をもった会社であり、それは何よりIBM出身の佐野力氏のバイタリティー、明るさ、豊かな発想を原動力とするものだということがよくわかる書物。
ちなみに僕がこの本を手に取った理由は、今から十数年前、技術水準でデータベース市場を席巻したイングレスというRDBMS製品がなぜオラクルに完敗して、今は見る影もなくなってしまったかを知りたかったからだ。
ひとことで言うと、イングレスは技術偏重でマーケティングや組織を軽視する一方、オラクルはしたたかな営業戦略と世界的な組織化で勝利を収めた。当時、イングレスではなく、まだ性能の安定しなかったオラクルを選択したベンダーや企業は「技術よりも組織とマーケティング力」を理由にしていたようだ。
これは成熟したIT業界にもそのまま当てはまる公理かもしれない。つまり、たしかに情報システムにかかわる人々にとって技術は大事ではあるけれども、それ以上に情報システムを展開・定着させるための組織化の努力や、社内のニーズを吸い上げる「マーケティング」が重要なのだ、ということ。
技術にしか興味がなくエンドユーザを心の底で軽蔑しているようなシステムエンジニアに、情報システムの仕事などする資格はないということだ。イングレスの他、ユニファイやサイベースの没落の経緯も同書に詳しいので、RDBMSの興亡史という意味でもぜひご一読頂き「他山の石」とされたい。