建築家・隈研吾氏の講演

建築家・隈研吾氏の講演を聴く機会があった。1979年東大大学院建築学を修了、馬頭町広重美術館(2000年)や松竹新社屋を手がけた人。
論旨は明快で「20世紀の都市の問題点は『郊外』に過剰な期待を抱いたことだ」というもの。第一次大戦後の米国は戦後の住宅不足を解消するため、住宅ローン制度の創設で郊外の持ち家政策を推進、経済成長と反映を実現したが、都心部の衰退(ニューヨークを除く)や郊外の自然破壊、交通渋滞など様々な都市問題をもたらした。他方、欧州は都心に安価な賃貸住宅を提供する政策で、経済成長では遅れをとったが、今、21世紀を迎えて欧州型の都市生活が見直されつつある。
日本は第二次大戦後、米国流「郊外の夢」を非常にまずいやり方で真似て、都心もなければ郊外もないという惨憺たる状況に。大戦前は日本でも「長屋」という賃貸生活が一般的だったが、戦後の無理な持ち家政策で水平過密の醜い都心ができあがってしまった(かのエンゲルスは持ち家は労働者を農奴以下の存在にすると言っていたらしい)。なるほどと思いながら氏の話を聴いていた。結局のところ話はつねに同じ結論に達し、日本には後藤新平など適切な都市のグランドプランを描ける人間がいたにもかかわらず、その価値を理解する政治家が一人もいなかったということだ。
それにしても冷静に考えると住宅を取得するためにだけ特別に低利の資金を貸し付けるというのは、ひじょ~に恣意的な金融政策だ。住宅ローンが20世紀初頭の米国の「発明」だと知った今、現代の日本人がウサギ小屋をめぐってまだそんな「郊外の夢」に踊らされているという状況が少し滑稽に思える。もちろん老人の住環境にかんする政策が貧困な日本では、持ち家を持つしかないのだが、「持ち家主義」というのも僕らが老人になる頃にはきっと20世紀の遺物になっているに違いない。